今回は「知識がないのに応用問題を解こうとするのは無謀です」という話をします。
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受験の話?
受験をベースに考えたから「応用問題」という表現を使ったけど、「新しい発想やひらめき」とか「イノベーション」といったもう少し大きな話に繋げていくよ。
学生だった頃「応用問題」って難しかったですよね。応用問題が解けるようになるには次のようなことが大事と言われています。
- 基礎をしっかり学ぶ
- 考える訓練をする(思考力の養成)
- 問題パターンの暗記
他にも色々ありますが、このくらいにしておきましょう。これらの方法は塾などで例題をたくさん解かせるみたいなやりかたに通じるものですが、「どんな応用問題も解けるようになる」方法ではありません。
そもそもどんな問題も解けるようになる方法は存在しない
テストの問題というのはいくらでも難しくなります。簡単なやり方は「中学校のテストに大学の知識を必要とする問題を組み込む」などですね。偶然のひらめきで答えに行きつく子が全体の数%ということが過去のテスト結果などでわかっている場合、点数調整用に最終問題などで応用問題枠でそういう問題が出題される可能性があります。
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テストの話になってるけど、結局何が言いたいのさ?
私が過去に塾や学校で言われたやり方は
「問題文をよく読んで、よく考えましょう」
というやり方。高校の模試があるたびに、問題文をよく読んで、よく考えて解答してみました。
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それは…、無謀じゃない?
その通り。解答時間は足りないし、そもそもどうやって解けばいいか手掛かりすらつかめません。
物の形、物事の形を「見る」には知識が必要
ちょっと話を変えます。たまに床や壁の模様が「人の顔みたい」に見えたことはありませんか?
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わりとよくあるんじゃない?
私はよくあります。これは「人の顔」というものについての知識があるから、人の顔に見えるわけです。
人の顔だけではなく、魚や動物に見えたりもします。この話の肝心な部分は「そもそも対象を知らないと乱雑なパターンはその対象のようには見えない」ということです。
これは「物」の形の話ですが、「物事」の形にもある程度当てはまります。
赤ちゃんは大学の数学を理解できません。ベースとなる数の概念も、四則演算も知らないからです。
このように物事を見て「数学の問題だ」と気づくためには数学を知っていないといけないわけです。
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当たり前じゃない?
ところがテストとか「新規の企画をひらめきなさい」という職場の要請のときは、とたんにこのことが無視されるんだ。
テストの応用問題では「問題にどんな手法を適用すればいいか」というのは「手法」に関する知識が必要です。知識なしには「問題を解くための筋道」が見えない。
ひらめきというのも同じです。「世の中の現象がこれまで自分が生きてきた知識の中の何らかの形に見える。そしてそれが今までにない見え方である」というのがひらめきです。ベースとなる知識がなければ、世の中を何らかの形に「切り出す」ということができません。ヒントになる知識が無いからです。人間は類似性で物事を分類しています。ベースとなる具体的な知識無しには分類するための概念がなく、分類できません。
無知ゆえに新発見ということもあるけれど
業界知識が無い人が配属先で今までにない視点を提供するというのはよく聞く話ですが、それは業界知識が無い領域を「配属された新人の知識」で見てみるから有効なのです。ここでも結局知識があることが前提となっています。AT&T, モトローラ, DEC, 3Mなどの一流企業のコンサルで有名なジョエル・バーカーの著書では次のように言われています。
こうした人たちの大きな強みが、一種の無知であることがわかる。〔……〕。彼らは「とんでもない」質問をする。〔……〕。禁止事項を知らないから。現在のやり方に手をつけてはいけないとは思わない。
参考:ジョエル・バーカー, パラダイムの魔力, 日経BP社, 2014.
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深く知らないといっても、人生経験はあるわけだからね
スタートアップでは知識の深さが基本
知識の有効性については、スタートアップの支援を続けている東京大学産学協創推進本部 FoundXディレクターの馬田隆明氏の著書で次のように語られています。
企業家を目指す方の中でよく見られるのは、深さの不足でした。海外のスタートアップの表面的な真似はできているし、ビジネスモデル自体はありえるかもしれないものの、目の前の顧客の課題にてついては掘り下げられておらず、解決策となる製品の内容もふわっとしている。〔……〕逆に言えば、「深さ」に注力することで、頭一つ抜けることができる、ということです。
参考:馬田隆明, 解像度を上げる 曖昧な思考を明晰にする「深さ・広さ・構造・時間」の4視点と行動法, 英治出版株式会社, 2022.
結局のところ知識なしに応用問題を解くのは、「知らないことを知っている」という奇妙な現象でも起きない限りかなり困難なのです。概念の知識なしに、その概念を知らないと解けない問題が解けるというのは普通はありません。
ちょっと考えるだけでノーベル賞級の発見ができるなら別ですが、たいていの応用問題を解くための知識というのは、超天才が何年もかけて完成させた理論や発見を前提にしています。
微分積分だって17世紀にニュートンとライプニッツがまとめるまでは、今のようには使えなかったわけです。数学者は紀元前6世紀のピタゴラスの時代からいたはずで、千年以上かけて編み出した微分積分学を高校数学で素人が使えるようにしているわけです。
微分積分を学ばない高校生に、使い方の説明もなしに「微分積分の問題を解きなさい。わからないならよく問題を読んで、よく考えなさい」と言ったところで、下手をすれば千年考えなければならなくなるでしょう。こういうことを「車輪の再発明」と言ったりします。
車輪レベルの発明をいつでもできるなら、どんな応用問題も解けるとなるかもしれませんが、普通の人間には無理でしょうね。普通の人間はおとなしく教科書の知識をまずは覚えましょう。応用問題を解きたければ、類題をたくさん解いて問題パターンを知るとか、本を読んで色々な思考パターンを覚えるとかしましょう。
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なんで数学なのに読書なの?
意外に重要!読書の大切さ
思考というのは基本的に問題集のパターンの暗記だけでは身に付かないんだよ。私の場合、17歳のときは解けなかった問題が30代になって解き直すと解けるし何を言っているかわかるというのがよくあったんだ。
何故なのか考えてみたんだけど、色々と人生経験を経て、物事の見方をたくさん蓄積したから、問題の論理展開とか思考過程を理解しやすくなったんだと思うんだよね。そして物事の見方を蓄積するには読書が大事なんだよ。読書は物事の新しい見方を教えてくれるからね。
数学の応用問題を作る人は30代とか40代とかの大人だよね。つまり大人の思考過程で応用問題は作られるんだ。そうすると、問題で使う数学の理論はわかっても、それを論理的に展開していく過程で30代くらいの脳の発達段階で身に付く思考過程が必要だったりするんだよね。
10代で30代の思考を身に着けるというのは難しいかもしれないけど、読書を5年くらい続けていれば、多少は物事の見方のストックはたまるんじゃないかと思うんだよね。
まとめ【イノベーションもひらめきもまずは知識】
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イノベーションがどうとか言ってたけど?
結局ひらめきというのが偶然降ってくるにしても、そのベースとなるものの見方に関する知識のストックが必要ですということ。
何も知らない人が悩んで苦しめばイノベーションが起こせる・起業できるというわけではないですよということです。
物事の形のストックをたくさん持って、世界をそれで切り取るチャンスを逃さないようにしましょう。